新型コヒーラ検波器と新型SPD
新型コヒーラ
 コヒーラは、別名ブランリー管などとも呼ばれる、一対の電極間にニッケルなどの金属粉体や金属小片体をゆるく挟み込んだ構造のもので、通常状態での電極間電気抵抗は高抵抗(ほぼ絶縁状態)ですが、火花放電などにより生じた電磁波などを受けると鋭敏に反応し電気抵抗が減少、ほぼ導通状態となる電磁波感応素子(検波素子)です。この現象を「コヒーア」といいます。
 コヒーラは一度導通状態になると電流を切っても、もとの絶縁状態に戻りません。もとの絶縁状態に戻す(復帰させる)ためにはコヒーラに振動を与える必要があります。これを「デコヒーア」といいコヒーラに振動を与えてもとの絶縁状態に戻す装置を「デコヒーラ」または「タッパー」といいます。通常、コヒーラとデコヒーラは一体として用います。
 コヒーラは無線通信の黎明期に発明されたものです。明確ではありませんがいくつかの記録を観てみますと1888年のヘルツ(独)の実験による電磁波の発見後、1890年にブランリー(仏)が金属粉が電磁波を受けると電気抵抗が減少する現象を確認、金属粉が密着(cohere)するためであろうと考えたようです。
 ブランリーはコヒーラに「ラジオコンダクタ」と命名したようですが、これが「コヒーラ」の言われ始めであり、radioという語が電波の意味で使われた最初とされています。その後1894年にロッジ(英)がコヒーラを検波器として発表したとされています。
 コヒーラの発表当時、他に便利な検波器はなく、コヒーラはその後実用の検波器として各国で生産され広く用いられています。
 コヒーラは、通信用検波素子としていくつかの致命的な欠点を持っています。
〇 毎回、感度がばらつく。
〇 短期間で特性が変化する。(経時変化が激しい。)
〇 製造時のわずかな条件差で一個一個の性能に大きな差が出る(個体差が大きい。)
〇 復帰させるためには振動を与える必要があり、通信速度を上げられない。
〇 空電(雷)による誤動作がひどい。(モールス符号の解読ができなくなる。)
〇 無線電話に使えない。
 安定した無線電信や無線電話、ラジオ放送の実用化が急がれていた当時、受信機に使う検波器の改良は急務、コヒーラの改良に手を焼いたフレミング(英)は根本的な解決策として1904年に二極真空管を発明、また、ほぼ同時期に発明された鉱石検波器により、コヒーラはその登場よりわずか十数年で、その役目を終えたとされています。 
 鉱石検波器は原理的に現在の点接触型ダイオードと同じものでしたが、その特性は不安定で、フレミングの二極真空管やその後発明された三極真空管の安定性には及びませんでした。一方、真空管は熱電子放出効果を利用したものであり、電極(陰極)を熱するためのヒーターが必須、従って強い電流を供給する電源が必要です。初期の真空管は陰極直熱型、直流で使用することを前提としたものでしたので、直流電源(電池)での使用は大変でした。
 しかし、テスラ(米)らの交流配電方式の完成と普及に伴い、真空管は交流電源で使用することのできる陰極傍熱型に改良され、真空管全盛時代となりました。わが国においてもラジオ放送開始直後は、一般家庭への電灯の普及がまだ十分でなかったこと、構造簡単であることなどから鉱石検波器を用いた受信機(鉱石ラジオ)が用いられていましたが、その後の急速な電灯の普及により、ラジオ受信機のほとんどが真空管方式となりました。
 1948年、ベル研究所(米)のショックレー、バーディーン、ブラッテンらにより、鉱石検波器から偶然、増幅素子が発明されました。「トランジスタ」と名つけられたこの素子は、理論的な裏付けがなされ、安定した製造方法が確立、続けてこれを応用した集積回路が発明、半世紀以上に渡って続いていた真空管時代は終わり、小型、低電圧動作、高効率、長寿命の半導体素子全盛の時代となりました。

ところが、半導体素子はサージに対して、真空管とは比較にならないほど脆弱であり、特に集積回路の進歩に伴うマイクロコンピュータの急速な高性能化に追従するように、これらを用いた高度な電気機器、特に高度情報化社会を支える電子情報機器などのサージによる故障が急増、現代社会の根底を揺るがしかねない状態となっています。 

 平川研究所は安価でサージ耐力の大きい丈夫な雷検知装置の開発に着手、雷検出用素子として雷サージに対して強い耐力を持つ二極真空管を用いた雷検知装置を完成させましたが、真空管を用いている限り、実用的な雷検知器とはほど遠いものであり、頭を抱え込む日々が続いていました。そこで再度、検波素子から探し求め、コヒーラに注目することになりました。
 今日実用の通信用検波素子としては使い物にならないコヒーラですが、平川研究所はコヒーラの雷検出素子としての優れた性質に注目しました。
〇 静電気に対する感度がある。 
   落雷前検出が可能。
〇 雷のようなインパルス電圧に鋭感。通常の放送通信用電波には鈍感。
  素子単体で雷に対するずば抜けた選択性がある。強電磁界下でも雷検出ができる。
〇 ON動作が極めて速く、ON電流が極めて大きい。耐電圧が大きい。
  素子自体がサージアブソーバの働きをする。    

コヒーラが発明された当時、物理学は未完成でした。ブランリーやロッジはコヒーラの動作原理を、電極間にばらばらの状態にある導体金属粉と電極が、電磁波のエネルギーにより互いに引き合い、導体金属粉が電極と密着することで導通を得るのだと解釈していたようです。 

 その後、物理学は飛躍的な進歩を遂げましたが、コヒーラの動作原理については新しい理論から再検討されることはなく、何人かの科学者によって、コヒーラの製造時、空気中に金属粉や電極をさらしている間に金属粉や電極の表面に空気中の酸素や水蒸気により、酸化物や水酸化物の「絶縁膜」ができ、高電圧によりその「絶縁膜」が破壊され粉末や電極の導体部分が露出、接触して導通を得るのだという解釈がされました。そしてこれに「コヒーラ効果」という呼び名が与えられ、リレーやスイッチなどの劣化した接点に高い周波数の高い電圧を加えてその接触を回復させる方法も考案されました。

ところがこれでは実際のコヒーラの動作との間に多くの矛盾が生じ説明がつきません。例えば「絶縁膜」を破壊するためには、理論的にかなりの高電圧を必要としますが、実際のコヒーラの動作電圧は理論上のそれよりも、二桁以上も低いのです。 

 平川研究所ではこれらの矛盾を説明するためさまざまな実験を繰り返しましたが、ことごとく失敗、半ばあきらめかけていました。しかしある日、全く偶然にも昔のコヒーラの素材で「検波ダイオード」ができてしまったことから事態は急展開します。このダイオードは「点接触ダイオード」そのものでした。
 コヒーラはその製造時、空気中に電極や金属粉をさらしている間に、その表面に空気中の酸素や水蒸気によりごく薄い酸化膜や水酸化膜ができこれが「半導体」となるのです。すなわちコヒーラの動作は、単純な金属粉と電極の密着によるものではなく、また単純な絶縁膜の破壊によるものでもなく、半導体膜に覆われた金属粉や電極によって点接触ダイオードや抵抗が形成され、その降伏(すなわちこの段階でコヒーラはONになる)に伴って接触部分に電流が集中、結果、接触部分の半導体膜が破壊、電極や粉末の導体部分が露出して接合状態になることが明らかになりました。「コヒーラ」の呼称で広く知られてはいますが、ブランリー本人が名づけたとおり「ラジオコンダクタ」と呼ぶほうが相応しいものだったといえます。
 昔のコヒーラは、金属電極や金属粉の表面に空気によって自然にできる天然の酸化膜や水酸化膜を利用していたので、その空気にさらされていた時間や気温、湿度、大気圧などのわずかな違いによってもその膜の厚さは電子の運動の観点から考えると、大幅に不均一なものとなります。従って、同じように作っても素子によって感度の個体差が激しい、また空気中に封止したものは時間の経過とともに自然に酸化や水酸化が進み、膜が厚くなり、膜の性質が半導体から絶縁体に移行して特性が悪化、真空に封止したものでも、不均一な酸化膜や水酸化膜のため感度が安定しないという事態を生じていたのです。

  コヒーラはその電極への電圧の印加により、電極と電極間に挟み込んだ、半導体膜付き金属粉末および半導体膜付き金属粉末同士の点接触が完成、点接触型ダイオードと抵抗を直列に接続したものと等価になります。印加電流が少ない間は定電圧ダイオードを並列に逆接続したものや、バリスタなどと近似した電圧制限特性を示し、不安定な可逆性も認められます。

 コヒーアとはこのダイオードや抵抗が増大した電流により破壊、短絡状態になることです。従って一度コヒーアするとその導通は不可逆となります。点接触であることから微小な接触部分に電流が集中、その短絡に必要な電流量はわずかで短絡速度が非常に速く、優れたサージアブソーバとしての働きを兼ねています。電極間の静電容量が極めて小さく、ハイインピーダンスのため、インパルスに対して鋭感です。

 コヒーラの動作は@電界印加によるダイオード等の内部回路形成期、A電圧制限期、B短絡動作(コヒーア)に分けられます。電極への電圧印加により、電極と半導体膜付き金属粉末および半導体膜付き金属粉末同士の点接触が完成したとき、点接触型ダイオードと抵抗を直列に接続したものと等価になり電圧制限動作が始まります。点接触部分の半導体膜を破壊するのに必要な電流が流れた後、点接触部は金属接合に移行、短絡(コヒーア)します。降伏電圧と実際の短絡動作電圧(コヒーア電圧)には差があります。コヒーアに至るまでの時間とコヒーア電圧は、降伏電圧を超え、コヒーラに流れた電流量により決まります。すなわちコヒーラの動作を安定させるためにはその製造において半導体膜や電極表面の諸特性を安定させることが必要です。

 上の写真はあるコヒーラに制限抵抗を設けて電流を十分に絞り、1.2/50(μ秒)40(kVpk)のインパルス電圧を印加したときの応答例(電圧制限特性例)です。
 の写真は、同じコヒーラに今度は電流が十分に流れるようにして、同一のインパルス電圧を印加したときの応答です。電圧制限動作期がほとんどなくなり降伏電圧とコヒーア電圧の差が小さくなっています。

実用型小型コヒーラ  
 平川研究所は新しい材料と製作方法により、再びコヒーラを実用の電子デバイスとして現代に蘇らせることに成功、その高い信頼性から、まずは雷警報機用として実用化し、原子炉の制御用電源、病院の電源、大規模石油備蓄施設の制御用電源、地震速報システムの電源、灯台の電源などの最重要電源を雷サージから護るものとしました。
  そしてこれは派生して新しいSPD(避雷器)の発明になり、現在、世界最高性能のSPDとして、重要電源のみならず、世界中のご家庭で、雷などによる電気火災防止用として使われています。
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